「ヴィラ・デラ・パーチェ」が大切にしていることは?
自己主張しすぎないことです。主役となるのは店内から眺める穏やかな海の景色。料理自体はその景色や雰囲気を楽しんでいただくためのパートナーととらえています。使用する食材に関しても、裏山で採れた山菜やキノコ、近くの港で水揚げされた魚など、能登の海の景色と同化するような、てらいのない食材えらびを心がけています。
なぜ、NOTOFUEの活動を始めようと思ったのですか?
お付き合いをしている生産者の中にも高齢の方が多く、お店を始めた当初から「今使っている食材は10年後20年後も手に入るのだろうか」と、焦りのようなものを感じていました。実際に地元の料理人たちと「自分たちでなんとかできないか」と、具体的な話をしたこともありました。そこで立ち上がったのが、今回のプロジェクトになります。
これまでに「資源の枯渇」を危惧する経験はありましたか?
地元の高齢者が営んでいる直売所で食材を買うことが多いのですが、跡取りがいないという理由で閉めてしまうケースが増えたように感じます。それによって食材が手に入らないだけでなく、地域の人たちの交流の場さえも失われてしまう。料理人にとっても生産者さんとの交流は、発想のきっかけにもなる大切な場なんです。また、生産者が減ることで山が荒れてしまうことも危惧しています。今ある能登の里山は人々によって維持されてきたもの。人と自然が共生する能登という地で、そうならないためにも守るべきものはたくさんあるはずです。
NOTOFUEを通じて、創造したい未来像はありますか?
地域のコミュニティを復活させるためには、生産されたものを正当な価格でマーケットに流通させる取り組みも大切です。たとえば七尾には中島菜という伝統野菜がありますが、あまり家庭で料理されることはありません。そういった状況を変えるのもシェフの役目。料理人が食材の可能性を広げ、その良さをアピールすれば、需要とともに後継者になりたい人が増えるかもしれません。
今現在、資源の保護に取り組んでいることはありますか?
生ゴミを廃棄に変えて畑にまいたり、いしりの製造で魚の内臓や残を活用しています。ただ、環境に配慮しているというよりは、ごく当たり前のことをやっている感覚ではあります。昔からある能登の暮らしを実践しているというか…。グリーンスター(※)を獲得できたのも、自然の恩恵を持続的に受けてきた能登の生活の知恵が、現代のサスティナブルな価値観にフィットしているからだと思うんです。
※ ミシュランガイドの新指標。フードロスの削減や環境に配慮する生産者の支援など、飲食店の立場からできるサステナブルな取り組みを実践するレストランに贈られる。
最後にシェフご自身の意気込みを聞かせてください。
料理人や生産者とのコミュニティが生まれ、話す場が増えることに大きな意味があると思っています。現メンバーとの会話でも、食材に対するアプローチや、地域や生産者との関わりなど、それぞれの考え方にいつも刺激を受けています。そうやってお互いが成長し、お店のファンが増えて、結果的に能登や石川の発展につながるのが理想の形だと思っています。